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SS / あなたの意地汚さに私はいつも





 こーら。
 ぺしっ、と乾いた音がキッチンに響くと、少し赤くなった肌をさすっている真が口を尖らせた。恨めしげな視線なんて気にする風でもなく、千早は三角に丸めた手でおにぎりを黙々と作る。カチコチと壁に掛かった時計だけが音を刻む空間で、わざと音を立てないように時間が過ぎていく。
 二人でピクニックに出かけなさい。
 そうプロデューサーに指示されて一週間。卓上カレンダーの端に、でっかくつけられた花丸の陽気さは千早を落ち込ませていくだけだった。どうしてアイドル業に何も関係ないのに。そう問い詰めても、頭一つ上でおどけるプロデューサーは本当に憎たらしい。でも、ここまで真と問題なくやってこれたのも一応はあの人のおかげ。ソファーで頬を膨らましてむくれている真を覗いて、どこか可笑しくて千早はフフッと笑った。

「一応、料理は出来るんだ」
 一応ってなによ。そう返すのも億劫で、袖を捲くった腕をテキパキと動かす。真に言うつもりはないけれど、どうしたって一人で料理を作らなければならない時が多かった。一度、彼女の父親が事務所に顔を出したことがあったけれど、そこからも感じる家族の暖かさに、確かに嫉妬したのを千早は覚えている。
 上手いもんだねー、と出来立ての卵焼きに伸ばそうとする手をペシっと叩く。ちょっとくらい良いじゃん、とでも言いたげな瞳はまるでワガママな猫のようで、おそらく余るだろうアスパラのベーコン巻きを一つだけ差し出すと、手に取らずにそのままパクッと一口。眉をひそめる暇も無く、ホクホクと満足げな顔に千早は言葉を失う。たまに事務所にお菓子を持ってくる春香の気持ちが、ほんの少しだけ分かった気がした。
 お弁当におかずを詰め終わり、いそいそとエプロンを外すときも真はジロジロとこっちを眺めている。その視線に嫌なものは感じなかったけれど、背筋に感じるくすぐったさはどうにも否めない。
 こういう時に気軽に「なに?」と言える度胸が欲しい。私はいつも臆病だ。畳んだエプロン片手に、勝手に沈み込んでいく千早に真は「やっぱそうだよね」と、千早の落ち込みを塞き止めるダムが現れる。
「なにが?」
 今度こそ訊ねると真は、うんうん、と勝手に納得したように頷く。おまけにその顔がニヤニヤとしたものだから腑に落ちない。
「だからなに?」と、思わず強くなってしまった語調も気にせず、真は「女の子だよね」と、色々かっ飛ばして結論に落ち着く。だからなにがっ、そう叫ぶほど、やっぱり私は度胸がない。
「千早もさ。普通の女の子なんだな、って」
 いやーいつも千早ってブスっとしてるしー。その後の真の言葉なんて聞こえない。そんな純な女の子じゃあるまいし。ボッと熱を帯びる顔を見られたくなかった。けど、真はそれを許すはずも無く、こちらにズカズカと近づいてくる。
「たとえばねー」
 いやその。顔を両腕で遮ろうとする千早。でも、真はその千早の腕を丁度良いとばかりに掴むと、千早じゃ到底かないっこない力強さで自分の口元まで持っていく。このままガブッと手でも噛まれるのか。むしろそうしてくれた方が幾分に楽か。
 パクッ。
 目をつぶって待っていると、指先が少しだけくすぐったいだけ。瞼を開いた先にはモゴモゴと口を動かしている真がいて、指先に感じる糊状のものに、そこで初めてご飯粒がついていることに気づいた。
「うん。おいしい」
 満足げに頷く真に、こんなことなら激辛のオカズでも作ってやろうかと千早は思う。本当にこの子は意地汚い。
 さ、行こ。そのまま差し出してくる手を振り払ってやろうとも思ったけれど、握った手の暖かさに千早は少しだけ安堵した。


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