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GSSS/もしも律子以外がガールズサイドになったら







 書類を突き出す私に朱雀さんは僅かに顔を歪ませる。乾いた笑いを搾り出し、これが漫画だったら冷や汗の一つでも出ているのであろう気まずい雰囲気が場を包む。押しつけるように書類を朱雀さんの机に置くと、彼は僅かに肩を落とした。


もしも律子以外がガールズサイドになったら


 事務所の人間が男性化しても、私の日常はさほど変わらなかった。はじめこそ混乱し迷惑をかけてしまったけれど、だからといって何か出来るわけでもない私が出来ることは半ば諦める形で周囲に溶け込むこと。いわゆるTSネタは鉄板だし、まあ無理やりそう自分をごまかすことには成功した模様。まさか自分の同人趣味がよもやこういうところで活用されるとは、お天道様でも分かるまい。
「りっちゃーん!」
 本棚の前で書類を探していると、ボフ、と悪ガキ二人の片方が胸元に飛び込んできた。ため息一つ。むんず、とクレーンキャッチャーよろしくアイアンクローで持ち上げて乙女の胸に軽々しく飛び込んできた不届き者にまずは一喝。
「こらぁっ! このマセガキ!」
 まさか持ち上げられるなんて思ってなかった亞央は中空で手足を泳がせている。我ながら逞しくなったもんだわ。
「なんだよ→! ちょっとくらい良いじゃ→ん、減るもんじゃないんだしさ→!」
 そりゃどちらかと言えば増えるもんだけども、っていやいや。
 とりあえずストン、と地面に降ろす。ホッと胸を撫で下ろす亞央。けど、そんなもんでこの律子様が許すはずなんて思ってもらっちゃあ困るわね。
 ゴツン!
 あってぇ→!? と悲鳴がこだまする765プロ。遠いところで息吹がご愁傷様といった顔を浮かべ、隅で第二波に構えていた麻央を一睨みすると、蜘蛛の子を散らすように双子はどこかへ行ってしまった。というかハルまで逃げることないじゃない。
「相変わらずですねえ」
 デスクに戻り、まだどこかムカムカとした気分を抱えていると、梓さんがカップ二つを手に近づいてきた。片方を私に渡すと、私のデスクにもたれ掛かりながら一口。くすくすと、上品なんだけど妙に引っかかる笑みを浮かべながら続ける。
「可愛いですよね」
「物は言いようですね」
「律子ちゃんのことが好きなんですよ」
 ね? と小首を傾げる梓さんは男の人なのにとても可愛くて、顔をしかめる私はなんて可愛くない女の子だろう。とにかく、とデジタルに処理した感情をパソコンの画面に向けて業務に戻ると、視界の端の彼はいつのまにかいなくなっていた。

 パソコンの電源を消すと朱雀さんが食事に誘ってきた。夜にラーメンとは何ともデリカシーに欠けた魅力的なお誘いだけど、丁重にお断りさせていただいた。
「何か先約でも?」
「ええ。梓さんと」
 ああ、とご本人は笑っているつもりでも漂う空気の不穏さに気づいてないのかしら。それぐらい朱雀さんからアレ気なオーラがひしひしと。
 そりゃあまあ私だってまだギリギリ高校生なわけだし、勘違いならともかくこうして二人の男性からアプローチをかけられるのは満更でもなく。「また今度誘ってください」と、笑うとこれまた分かりやすい「はいっ」が帰ってくるわけで。朱雀さんって絶対、良い人で損するタイプだという分析はあながちハズレでないはず。
 お待たせしました、と素敵な笑顔で迎えに来る梓さんと共に事務所を出るまで背中に刺さる視線は消えなかった。
 創作和食をベースにした隠れ家風居酒屋と、何とも"分かっている"チョイスは逆に梓さんのイメージと違ったけど良いお店だった。
「すいません。まだ高校生なのに」
「もう耳のタコも潰れるぐらいのセリフですね」
 卵形の手狭な個室では体の大きい梓さんとはどうしても近づかざるを得ず、触れ合う肩が仕事のときとは違う意味合いを持ち始める。それでもそこにいやらしさを感じさせないあたり梓さんというか、慣れてるというか。柄にも無く赤くなる頬は梓さんから奪い取ったお酒のせいにすることにした。
「普段もこんな風に女性を誘ってるんですかねー?」
「ええ。ここの店長とは懇意にさせてもらってるんで」
 絶句する私に、「冗談ですよ」なんてまたニコリと良い笑顔。基本的に勝てないと分かっていても噛みつくのは私の悪い癖か、それにしたって女性のときより手強くなってるのは気のせいか。グイッ、と傾けたグラスの先がぼやけて、そこでやっと自分があまり強くないのを悟った。

 翌日、重い頭にパソコンの画面は思っていた以上に辛かった。
「りっちゃん隊員はどうやらふつかよいらしいですな→」
「ですな→」
 衛星よろしくグルグルと私の周りをうろつく双子をしっしっと手で追い払うものの、こういうときばかり目ざといのは男女関係ないらしく、
「あずにゃんと何かあった?」
なんてハモッて言われればソレ相応に慌ててしまうわけで。真っ青だったはずの顔が熱くなると、双子はますます目を細める。あとあずにゃんは違う漫画だからやめなさい。
「ほほ→。どうやらアレでソレなことがあったらしいですな→」
「ですな→」
 あんたら意味分かって言ってんのか。もう限界とばかりに立ち上がろうと机に手をかけたところで、朱雀さんが「まあまあ」と私達の間に割って入ってくる。
「律子ちゃんも落ち着いて」
「私が落ち着いてないと?」
「いやそういうわけでは……」
 苦笑いを浮かべる彼に、そのまま毒気まで抜かれてしまった私は乱暴に席に戻る。朱雀さんも席につくと今度はそわそわと、うんざりとまではいかないけど勘弁して欲しい。言いたいのなら直接ガツンと、そう思っても私は頬杖をつくばかりだ。
 女性のときから遠慮癖というか、年下の私にも馬鹿丁寧なところを持っていた小鳥さんは、男になると更にひどくなっていた。そりゃ一応は異性なわけだし、多少男性恐怖症の気のある彼女からすれば順当な変化なのかもしれない。かもしれないけどねえ。
「きょ、今日はお食事いかがですか?」
 見た目だってこの事務所のアイドルに引けを取らないし、カラオケの時に披露して貰った歌声には千速も目を丸くしていたほど。けど自分にトコトン自信が無くて遠慮がちで、きっと恋をすれば良い人で終わる。それが朱雀さん。
 そこでやっと我に帰って、鏡を見なくても顔が熱くなる。「あのー」と、肩をつついてくる彼を睨みつけた。
「聞いてますからっ!」
 ああ、なんて私は可愛くないんだろう。

「でしたら、それは律子ちゃんにも言えることですね」
 ニッコリと、こちらに首を回して微笑む梓さん。私はただ渋い顔で返すしかなかった。
 事務所からタクシーで15分。彼の行きつけだと言うバーは人が少ないせいか見た目よりも広く感じ、流れてくる音の心地よさが頭を痺れさせる。
 結局、朱雀さんのお誘いを無下にした私はなぜかこの場所にいる。ううん、選んだのだからそれはただの言い訳だ。
「そうですかね?」
「ええ。自分に自信が無くて、ええかっこしいの割りに世話好きで」
「酷い言われようね」
 カクテルの水面からゆらゆらと、浮かぶ私の顔が揺れているのは果たして何がいけないのか。分かってる、見たくないだけ知りたくないだけと責め立てる私。それはそれで違うのよねえ、と天邪鬼な私。そもそも何を悩んでいるの? と今更な私。色んな私が喚いていて、結局よく分からなくて。
 こっち。
 ふいに呼ばれて顔を向ける。鼻の頭がぶつかるんじゃないか、という場違いな思考は唇に触れる感触でやっと現状を把握する。
 あ、キスされてる。
 顔を無理やり背け、勢いで平手を打ちつける。存外に響いた乾いた音は周囲の視線を集めるには十分で、気づけば店の外まで出ていた。タクシーを捕まえ、自宅と言えば良いのにいつものクセで事務所へ行き、ボロいドアを開いたところでやっと色んな感情が戻ってきた。
 嗚咽。ズルズルとドアに寄りかかったままその場でへたり込み、未だ感触の残る唇を撫でる。ボロボロとまではいかなくても頬を伝う涙は分かっていた。
 時間にすれば10分ほどだろうか、涙が止まり、指の震えも無くなっていた頃、応接間から運んできたソファから寝息がしていることに気づく。見ると、何年洗っていないのかすら分からない毛布に朱雀さんはくるまれていた。リズムの良い呼吸は熟睡の度合いを示し、ちょっと仕事を押し付け過ぎちゃったかなと反省。
 さっきまでの嵐のように荒れていた思考と感情が静かに引いていく。梓さんと朱雀さん。共に年上の、私に好意を向けてくる男の人。
 耳年増で奥手で自分に自信が無くて。今までこんな経験、無かったといえば嘘になるけど敬遠してた。不要とまではいかなくてもどうしたって優先度は低くて、専業主婦の自分がどうしてもイメージできなくて。女だからとかそういうの抜きに自分の力を試したくて。
「律子ちゃん……?」
 私がいることは分かっているようだけれど、ゆるゆると開く目はまだ焦点が定まっていない。
「ああその、ちょっと急用を」
「……えらいね、律子ちゃん」
 また涙腺が緩む。別に褒められてたいわけでもないのに。
 慌てて目元を拭っていると、もう彼は夢の世界へと旅立っていて。どこか拍子抜けした私は、膝を床についてソファに寄り添う。毛布から顔だけを出す姿はどこかお茶目で、憎めないその顔の頬に軽く唇を触れさせた。
「まだ、貴方を選んだわけではないですからね」
 離した唇から自然と漏れる言葉は多分、本音。
 ああ、私はなんて可愛くない女の子なんだろう、なんて。




「いや→、やっぱピヨちゃんの母性はごんぞーろっぷにしみるね→」
「なんかちょっと危なげな会社に聞こえなくもないけど、よしよし」
 夢から覚めると待っているのは相変わらずな日常。また隣でじゃれている小鳥さんに一瞥をくれると、チャーミングな彼女が「なんですか?」と聞いてくる。
「いえ、何でも」
 あの夢で私は何を選んだのか。もしくは選ばなかったのか。分からないけど、私は彼女のことが大好きだ。




おわり


おまけ
小鳥「律子ちゃんの今度の新刊に出てくるキャラ、どうもどっかで見たような……」

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