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765商事☆ドタバタ日誌









 8大商社のひとつ、765商事東京本社特別マーケティング部は主にアイドルグッズを専門に取り扱う、一風変わった部署である。
 部署内の顔ぶれも個性的であるが、特に部長の如月千早は未だ二十台にしてその商才をいかんなく発揮していた。海千山千の商売人を前にしても臆せず、かつ自社の利益を守りきるその手腕は『鉄壁』とまで称されている。眉目秀麗、才気煥発の彼女をやっかむ人間は山のようにいるが、代わりに信奉者は星のようにいた。
 しかし、優れた才能と変わり者が同居するのは世の常なのか。女傑、如月千早はある"病気"を持っていた。

「あ、あのぉ、千早ちゃぁん……」
「だめよ、社内ではちゃんと役職名で呼びなさいと言っているでしょう。天海さん」

 細身の眼鏡を指先で持ち上げながら、如月は視線の先にいる天海と呼ばれた女性に淡々と言葉を投げかける。
 日本の他にもアジア地区も受け持っている部署は激務で有名であるが、それでも転属を希望する他部署の人間の視線の先にはいつも部長の如月がいるのは想像に難くない。ロボットなのではないか、なんてくだらない噂まで持ち上がるほどのタイトなスケジュールの中でも正確無比の仕事を続ける彼女の背中はさぞや輝いて見えるのだろう。
 特別マーケティング部所属の天海春香もその中の一人であった。もともと部署の仕事に興味を持っていたのもあった為、本社ビルの受付嬢から転属が決まったときは人目もはばからず泣いたのはもう昔のこと。転属の決め手となった如月のその"病気"を知ってから、天海はあの時の喜びを微妙な面持ちで振り返ることが多くなった。
 閑話休題。とにかく憧れの部署へと籍を置くことになった天海は今、部長室にて二人、届けに来た書類に目を通す如月の前にいた。
 顔が赤らんでいるのは憧れの人の前だからではなく、モジモジと太ももを擦り合わせているのはトイレをガマンしているワケでもない。

「ぶ、ぶちょぉ……」
「ほらここ、誤字がある。これも契約書の一部なんだから、いちいち変なところでケチつけられたらキリないわよ?」

 トントン、と指で誤字の箇所を叩く。しかし、天海は心ここにあらずといった様子で俯いている。下唇を噛み、必死に何かを我慢しているようであるが如月には関係のないことだった。おもむろにペン立ての横に置いてある携帯電話に手を伸ばすと、どこかに電話でもかけるのか、慣れた動作でボタンを押す。
 ピッ、と送信ボタンを押すと、ひぅっ、と小さい悲鳴が天海から上がった。歯を食いしばり、明後日の方向を向く彼女に如月は構わずにまた書類へと顔を戻す。心なしか短いスカートの端を握る手がカタカタと震え、吐く息に熱がこもり始めたのも如月は察知しているが、それも全て無視した。
 如月が天海の転属を認めた最大の理由はその顔だった。その実績と比較して破格の年収で完全な歯車となることを条件に、如月は部署に関する全ての権限を会社から得ている。もちろん優秀な人材の確保がその最たる理由であり、公私を区別してきた彼女の中で唯一、『囲った』と揶揄される天海の転属は如月の"病気"の始まりと言えるだろう。

「ここも、この表現じゃ後でイチャモンつけられたら辛いわ」

 トントン。如月のため息は深い。
 所詮は元受付嬢、まだまだ教えるべきことは沢山あるのだが、天海はそれどころではなかった。トロンとした目は中空をさまよい、だらしなく開いた口からはよだれこそ垂れていないが、もう一押しすればはしたない声があがるところだろう。
 書類から顔を上げて天海の様子に小さくかぶりを振ると、バンッ、と机を叩く。体全体が飛び上がるほどに強い反応を示す天海。
 まあまあ良しとしよう。わき目での観察に相応の満足感を覚えると、如月はトドメの言葉を突き出した。

「脱いで」
「えぇ……?」
「ストッキングだけで良いわ。脱いで」

 頬に紅を差したまま驚愕する彼女の顔は美しい、と如月は心の中でほくそ笑む。
 部署に関するあらゆる権限を渡されてからも私物化、なんてことはないように働いてきた如月であるが、天海に関しては違った。彼女に身の回りの世話をさせ、ことあるごとに彼女を呼び出し、ミスをしたと知れば指導と嘯いてのセクハラ。外からは見えない部長室で行っていることだが敏い者なら気づくであろう。
 天海春香の私物化。これが如月の病気だった。
 それでも何の処分や訓告もおりていないことが行為をエスカレートさせる。せいぜい痴漢が行う程度の愛撫をするだけだったのが、気づけば仕事中に快感に押し流されそうになる彼女を楽しむところまできていた。携帯電話のボタンひとつでそれが出来るなんて、ずいぶんと便利な世の中だと如月は笑う。

 天海は半べそをかきながら部屋の中心に立った。やっぱり勘弁してくださいという天海の訴えはあえなく却下され、如月は腕を組んで待っている。一筋、頬を伝う涙を掌で拭うと、ファンデーションがついていた。
 恐る恐るといった手つきでスカートの中へと手を差し込むと、ゆるゆると腕を降ろしていく。ドア一枚隔てた先には同じ部署の仲間達が世界を相手に商戦を繰り広げている。それなのに自分は、思い描いていたものとは違う失望と自分への悔しさで涙が溢れて溢れてたまらない。それでも黒いストッキングをおろす腕を止めないのは、天海の最後のプライドなのかもしれない。
 天海がストッキングを脱ぎ終えるまで、如月はニヤニヤと誰にも見せたことのない下卑た笑顔を浮かべていた。






つづく?

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