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GSSS/それとって








 その人はさりげなく私のそばにいてくれる人。
 ストーカーですか? と突っぱねたら、その人は柔らかく微笑んだ。
 


それとって



 プロデューサーから教えてもらった区立図書館は聞いていたとおり広くて、少し人が多いのが気になるけれど使いやすかった。入り口すぐにある貸し出しカウンターの頭上は吹き抜けとなっており、四階まである図書スペースを見上げると三浦梓さんがこっちを見て笑っていた。

「良いところですね」
「でしょう?」

 プロデューサーから紹介された当初、区民でないと貸し出しが出来ないのが難点だったのだけれど、なんとも近場でその"あて"は見つかった。
 私の視線を追うようにその"あて"の人も吹き抜けを見上げる。変装用に伊達メガネをかけているのだけれどそれだけで、すれ違う人の視線にも気づいていない様子。私はよく分からないが、こういうところが女性には受ける、という春香の意見を思い出した。
 行きましょう、と見上げたままの梓さんを促すと、「はい」と、私の行こうとしている逆方向へと歩き出す。慌てて止める私。その先にはデカデカと関係者以外立ち入り禁止と書いているのだけれど、「おやおや」と梓さんははにかむぐらいでそれほど気にしていないようだ。
 春香、こういうのが良いの?
 結局、梓さんの手首を掴みながら目的の階まで。こんなところを誰かに見られようものならどうなるか分かったものじゃない。梓さんはそんなのお構いなしというか、私に引っ張られながら「そんなに見たいんだね」と暢気なものだ。気づけば手をつないでいて、自分だけ妙に盛り上がってしまったことは忘れることにした。

 3階奥、オペラに関する書籍が並ぶコーナーに着くと、習性とでも言うべきか、私は梓さんを放ってマジマジと本棚に食いついてしまう。海外ロケで本場のオペラを見ることになり、仕事と生きがいの境界線が曖昧な私にとって、とても楽しい時間。まるで遠足を待ちかねる子供のようだと思いながらも、はたして自分がそんな、子供らしい子供であったかどうかはあまり覚えていなかった。
 とりあえず五冊ほど。積み重ねた本を梓さんの座っている席まで運ぶと、「意外と力持ち」と、こちらを見る目が細くなる。思いのほか、はしゃいでしまったのかもしれない。どうにもバツの悪い私は「知りません」とそっぽを向くと、また書棚の方へと戻った。その間も背中にチクチクと感じる視線から逃れるように、背の高い本棚の陰へと隠れていく。
 今回のプロデューサーのお節介といい、どうにも最近、私と梓さんを一緒にさせようという皆の魂胆が見える。人付き合いが苦手な私を慣れさせようと律曰く、事務所一の癒し系を私に宛がうのは確かに正解かもしれないけど、別にユニットを組んでるわけでなし、まさかお友達まで工面させて貰うなんてちょっと自分が情けない。律は律で小鳥さんとただならぬ仲の癖に(春香の情報だけど)。
 でも、と手の届きそうにない位置にある本を見上げながら思う。
 今まで、私と仲良くしようと近づいてきた人たちはこんなにお節介だったろうか。途中で、私の性格に嫌気が差してさようなら。そんなことを繰り返して、そんなことを繰り返すのに慣れてしまって。ちょっとやそっとじゃ動かなくなってしまった私の心を皆で引っ張りあげて転がしてくれた人が今までいただろうか。
 ああ、私は嫌な人間だなぁ。
 ふいに潤む瞳に、更に自己嫌悪に陥る。強情張りのくせにどうしてこんな脆いのだろう。事務所に入って、あの人たちに関わってからというもの、なんでもないことでも泣くようになった。その度に事務所の人たちは嫌がったり、煩がったりせずに私を慰めてくれた。いつだったか、今まで泣いてこなかった分を取り返してるんだと、梓さんはそう言いながら私の頭を撫でてくれた。
 泣いたり笑ったり、そういう当たり前のことをしましょう?
 どうしても届かない本に駄々をこねる子供が一人。自己嫌悪と悲しみでポロポロと涙を流す私の背中、その全部を覆う暖かい感触に体と意識が揺れた。

「これですか?」

 頭上から響く、ふんわりとした大人の優しい声。それだけで私はまた大粒の涙が溢れてくる。こんなのじゃぁ梓さんを困らせてしまうと分かっていても止まってくれない。
 今まで全部、欲しいものは自分の力で取ってきた。届かない時は泣きもせず我慢して、誰かの手を煩わせないようにとばかり考えていた。
 それとって。
 その一言を搾り出す頃には梓さんは私に胸を貸してくれて、その大きな手で私の頭を撫でてくれた。






おわり


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