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GSSS再掲/もしも春香以外がガールズサイドになったら








もしも春香以外がガールズサイドになったら


「ハァ……ハァ……」
 私こと天海春香は今、事務所に向かって走っている。久しぶりに休日一日使ってのレッスンが待っているのに、せっかくプロデューサーさん一緒にいられるのに初っ端から寝坊。ああなんてバカでダメダメな私なんだろう。そもそも、そもそもあの夢が悪いんだと、振り返る人も気にせずに横断歩道を駆け抜ける。どんな夢だったかも分からないけど、とにかくなんだかよく分からないけどあの夢のせいにして私は走った。
 見えてきた事務所に一層、足に力を込める。意外と走れるもんだなあって自分でも感心しながら、私は事務所に繋がる居酒屋横の階段を駆け上った。
「お、遅れましたぁ!」
 ドタドタと階段を駆け上り、事務所のドアを開ける。膝に手をついて乱れている息を整えていると「どうぞ」と、頭上からタオルが差し出される。風邪でも引いたのかな、なんて思いながらそれを受け取り、たぶん渡してくれたであろう小鳥さんにお礼を言おうと顔を上げた。
 「ありがとうございま……あ、の?」
 顔を上げた先には確かに小鳥さんっぽい男の人がいた。なんで小鳥さんぽい人って思ったのかは分からないけど、いつも付けてる頭のアレとズボンになっている制服を身につけて、私を頭一つ高いところからこちらを見下ろしている。思考停止になっている私に小鳥さん(♂)は小首をかしげてる。
 「どうしました? 来る途中に何かありました?」
 あったも何もアナタに何かがありすぎて困ってるんですけど。いや、ちょっとこれは下品過ぎるか。
 そんな風に意識まで遠くなってきた私に追い討ちをかけるようにまた誰か、社長とプロデューサーさん以外の男の人の声がした。
「どうした春香? 変な奴にでも追っかけまわされたのか?」
 更衣室から出てきたのは少し青味がかったサラサラの髪に端正な顔立ち。確かに昨日までは女の子であったはずの、私の親友がそこにいた。

/

「は? 俺たちが女の子ぉっ? いっつも転んでアブねーなコイツって思ってたけどそこまでとは」
「だからぁっ! そういうわけじゃなくてっ」
 私が叫ぶと、じゃあどういうわけだよ、と伊織っぽい男の子が突っかかってくる。男の人だけどちっちゃいし目はクリクリしてるし声も女の子みたいだしで、この伊吹(伊織っぽい子の名前らしい)は結構普段と変わらず接することが出来る。その代わり、「まあ春香だしな」と、ポンと頭に手を置く人に体がビクリと反応する。
 どうやら置いた人も驚いたようで、すぐに離れてしまった手が少しだけ寂しい。
「驚きすぎ」
 伊吹がジロリと怪しいですと言わんばかりに顔を近づける。
 だってねえ? とか言いかける自分を必死に止めて頭上を見ると、目を丸くしている千早ちゃんならぬ千速君がいた。何度見ても慣れないせいか、しげしげと顔を見ていると「なんだよ」と千速君は引き気味に体を反らす。
 正直、言っちゃあなんだけど結構千速君は私の好みだ。
 そりゃあ元々がアイドルだから男の人になってもイケメン揃い。さっきから我関せずとばかりにパソコンに向かっている律さん(律子さんっぽい人)は流行りのメガネ男子って感じで格好良い。話を聞いてるとどうやら他の子も男の人になってるみたいで、小鳥さんみたいだけどなんか私の春来た! って思ってしまった自分がちょっと悲しい。
「まあ良いよ。レッスンの時間も迫ってるし」
 千速君はそう言ってツカツカと颯爽とした足取りで外に行こうとする。ああもうちょっとと、名残惜しげな顔をしているのがばれたのか、「けっ」と、伊吹が毒づいた。
 そんな私の想いが届いたのか、事務所のドアを開けあけたところで千早君がこちらを見た。彼は「なにやってんだよ春香」と、先ほどまでの柔らかい雰囲気などどこ吹く風とばかりに私をにらむ。
 こういうとこはやっぱり千早ちゃんなんだなあ。
「ほら、早く着替えろ」
「ふぇ?」
 なぜか手で胸元を隠した私に、「なに考えてんだよ」と伊吹が力なくうなだれた。

 げんなり、という言葉がぴったりなぐらいの顔で私はレッスンルームを出る。その後には千速君がムスッとした顔を隠さずに続き、オフ日だからと様子を見に来た梓さん(もちろん男の人)があっちのあずささんを思わせる苦笑いで迎えてくれた。
 千速君は千早ちゃん以上に厳しかった。
 ミスは当然、気に入らないだけでも何度歌わされたことか。「真面目にやってんのかバカリボン」と言い放つ千速君の背中には確かに般若のようなものが見えました、はい。
「お疲れ様。春香ちゃん」
 ソファでうな垂れる私に、梓さんは紅茶を渡してくれた。男の人になってもさすがというべきか、ふんわりとした雰囲気の中にもどこか色っぽさを感じる。むしろ異性になったからか、千速君の時とはまた違うドキドキを覚えた。
 そんな感じでまたボケーっとしていた私に、「おいバカリボン」と青筋を立てんばかりの千速君が声をかけてくる。
「俺はもう少し残ってやってくから。お前はもう上がれ」
「へ?」
「だから帰れって言ってんだよ」
 千速君の言葉に、先ほどとはまた違う胸のドキドキに慌てて席を立った。まだやれます、と口を開こうとする私に「まあまあ」と、ハの字に眉毛を下げた梓さんが手で制する。ソファの上に戻されると、梓さんは両手を腰に当てて私に微笑んだ。
 その笑顔とポーズにやっぱりあずささんなんだなあ、と今更ながらに思ったりして。
「千速君は春香ちゃんのこと心配なんですよ。朝からどうも調子が悪いと聞いて、彼なりの優しさなんです」
 わざと千速君にも聞こえるように言ったのだろう、そそくさと顔を真っ赤にしながら彼はレッスンスタジオへと戻っていった。こういうとこも千早ちゃんだ、と一人納得していると梓さんはニッコリと笑みを作る。
 どうしても男の人のせいかやっぱりどこか恥ずかしくなってしまうけれど、私もまた笑顔を作った。

/

 思っていたよりも早く終わったレッスンに、一人エレベーターの中で息を吐いた。事務所の皆が男の人になってしまったことは今でもワケが分からないけれど、そこまで慌てるようなことはない。どうやら事務所の皆は私以外、全員男の人になってしまったようでそれはそれで嬉しいかもとか思っちゃうのは置いといて。
 とりあえず事務所に戻ろう。
 エレベーターが一階に止まった事を確認した私は、開いたドアの先の人間にまた驚いた。
「あれ? 春香じゃん」
 目の前には金髪のすっごく格好良い男の子。瞬間的に美希だってことは分かって、961プロの人達まで男の人になっていることに眩暈を覚えそうになるけど、エレベーターを出ようとする私をズカズカとした足取りで近づく美希君(?)に壁側まで後ずさる。
「えーと、み……き?」
「ん? 光希だけど? どうしたんだよ」
 あーそうそう光希光希。
 なんか妙に顔を近づけて来る光希に冷や汗が背中を伝う。なんか今日はこんな感じばかりのような気がする。もうエレベーターのドアも閉まろうとしていて、慌てて外に出ようとする私は腕を引っ張られて中に戻されてしまった。
 また壁を背にする格好で光希が顔を近づける。それこそ触れてしまうぐらいに。取られた腕を壁に押し付けられて、そこでやっとこの状況のヤバさを実感する。光希はニヤニヤとした顔を浮かべたまま、顔を背けても空いた方の手で無理やり戻された。
 その強い力にやっと、目の前の女の子だった友達が私とは違う男の人だと思い知る。
「いいかげん961に来なってー。春香ならすぐにトップアイドルになれるし」
 まるでついでのことのようにトップアイドルなんて言葉を持ち出してくる。プロデューサーさんのことであまり良くない感情を美希に持ったこともあったけど、それも今は良い思い出。お互いを認め合うライバルっていう納得のいく着地点を見つけたはずなのに。
 いつのまにか顔を撫でてくるその手にある種の気持ち悪さまで感じ始めていた。けど、目の前の彼は待ってくれる筈も無い。
「それとも話し合うなんてめんどくさいことやめて、俺から離れられなくしちゃおうか」
 最後の一線を踏み越えて顔を近づける光希。ジワリと、涙がこぼれてくるのも止められない私はその瞬間を情けなくも待ってしまう。死ぬわけでもないのに走馬灯じみたものが流れる。
 ああ、やっぱり私はプロデューサーさんが好きなんだなあ。
 けれど一向にこない感触に私は目を開いた。いつの間に開いていたのか分からないけれど、開いた扉から千速君が光希の肩を掴んでいる。そのまま無理やり自分の方へと向かせると思いっきり光希を殴った。
 手加減なんて一切ない、男の人の暴力。思わず体が震えた。
「てぇ……なんだよ、千速さん」
 あ、こっちでも、さん付けなんだ。少しだけ意外に思った。そんなノンキなことを考える私に一度だけ目を向けた千速君はでも、すぐに顔を光希に戻す。
多分、千早ちゃんの時だって見たことがないぐらいの怒りを光希に向けていた。
 千速君は「それはこっちのセリフだ」と、苦々しい口ぶりのまま続ける。
「いい加減、春香のこと諦めたらどうだ。春香は俺たち、765プロのアイドルだ」
「俺の、じゃないの?」
「黙れ!」
 なんちゅう会話をしとるんだこの人たちは。
 聞いてる私の方が真っ赤になってしまうぐらいの会話を、二人はエレベーターの中で繰り広げている。外では騒ぎに気づいた梓さんが「おやおや」と、なぜだか楽しそうな笑みを浮かべて眺めていた。良いから誰か助けてください。
「春香は俺たち、961に来た方が絶対に良いの!」
「根拠も無くそんなことを抜けぬけと……! これだから裏切り者はっ」
「なんだとこの粗チン!」
「くぅっ、言ってはならんことを!」
 あまりにもアレなやりとりに恥ずかしさを通り越して呆れすら感じ始めていた。っていうか千速君って小さいんだ。うん、ごめん。
 流石に子供のケンカになってきたあたりで梓さんが割って入る。それにしては噴出すのを堪えてる感じがまた少しイラッとくる。それでも梓さんは「ダメですよ二人とも」と、大人の余裕というべきか二人をすぐに諌める。ホッとする私。けれど、それも束の間だった。

「春香ちゃんが良いって言ったほうにしましょう。手段は問わず、それこそ体に言い聞かせる形でも」

 え? と言う暇も無くヒョイと三人に持ち上げられ運ばされる私。レッスンスタジオがいつの間にかどこかホテルの個室になり、ベッドの上へと放り投げられる。
 え? 雑じゃない? 雑じゃないこれ?
「春香。俺が765プロに離れられないようにしてやるからな」
「だから春香は俺のだって。な? 春香」
「おやおや。では僕も楽しませてもらおうかな」
 ちょ、ちょっと待ってー!?
 お母さんが飛び起きるぐらいの悲鳴をあげた私の朝はこうして始まったのでした。ちゃんちゃん。
 ついでに、しばらくの間、千早ちゃんの顔をろくに見れませんでした。溜まってんのかなあ、私。




おわり

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