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フタ絵理SS/「女プロデューサー 尾崎玲子」

性描写がございます。






1.発端



「いやー、良かったよ玲子ちゃぁん」
 無遠慮に尻を撫でる手に尾崎は吐き気にも似た嫌悪感を覚えた。脂ぎった下卑た笑みから漏れるのは男女平等という言葉など知らぬと言わんばかりの弁舌。三日月状の粘ついた視線は胸元の奥の奥まで見ようと必死で、そこだけは滑稽に思えて尾崎は微笑む。もちろん彼女の心情を知るはずもなく、先ほどから浮わっついた会話を続ける男はその笑みをどう受け取ったのか、下顎についた肉を揺らしながら彼女に顔を近づける。
 男が何を言ったのか。尾崎が担当するアイドル、水谷絵理が今後の芸能活動を順調なものにする為の男女間で行われる肉体を使った交渉。要は枕営業の誘いなのだが、その標的に絵理ではなく尾崎を指名する人間は多かった。元アイドルのプロデューサーという、局の人間からすれば何ともつけ込みやすい人種。男を挑発するような脚線美に、恥も外聞もなくねめつけるような目を向ける男のなんと多いことか。
 絵理がスターダムに昇った今でこそ、あちらが頭を下げることが多いのだけれど、時折、脳みそが下半身についたような馬鹿が未だ寄ってくることがある。それでも、局内の廊下で行われる堂々とした行為に眉を顰めながらも通り過ぎるスタッフの顔からして、この男が相応の地位にあるのは確かだった。
 尻を触る手がスリットの隙間にまで伸びてきたところで、「では、絵理を待たせていますので」と尾崎はさっさと歩き出してしまう。つれないねえ、と男は味わっていた手を振って見送るのを、尾崎は振り返りもせずに控え室へと歩いた。
 死んでしまえば良いのに。あの手の輩を相手するたびに、尾崎の心中は神に唾するように穏やかなものではなかった。女をそういうものでしか見れない精神を侮蔑し、そのようにしか扱わない男などそこらの虫けらよりも低俗なものにしか思えない。元々、潔癖の向きがあり、芸能界に対して複雑な過去と心境を抱く尾崎にとって、法の戒めさえなければ殺してしまっても構わないとすら考えていた。そういう意味では確かに彼女は高潔な精神の持ち主であったのかもしれない。
 精神であれ主義であれ、淀みにいれば何事も濁っていくのは世の常なのか。しつこくまとわりついてくる男の視線から逃れると、尾崎は細かく肩を震わせた。顔は仄かに上気しており瞳は年頃の少女のように潤んでいる。もしもあの男が見ていたら、それこそ勘違いされたかもしれない。もしもという不安は常に人を駆り立てるが、むしろ今は彼女を興奮させた。
 直線が続く廊下の、大きく開かれた窓から見えるのは青々とした昼下がりの空。その健やかさとは裏腹に尾崎の体は確かに疼きを訴えている。スリットから覗く太ももは僅かに赤みが差し、スカートを握る手には自然と力が入った。
 本当にあの子は。
 教え子を窘める教師のような顔も、全身から燻るように沸き立つ女の匂いに、まるでアダルトビデオに出てくる三文芝居のそれに取って代わる。彼女にしか聞こえない機械音が徐々に体内の水音によってかき消されていくのを、尾崎は切り刻まれる思考の中で感じ取っていた。

 灰色とベージュの味気もない廊下を通り、絵理が待っているであろう控え室へ入る。案の定、絵理は化粧台の鏡の前で不安そうな顔を作りながら尾崎の帰りを待っていた。鏡越しに彼女の姿を見るや、まるで幼子のように明るく無邪気な顔を見せる。テレビの中では決して見ることの出来ない水谷絵理がそこにいた。
 尾崎さん、と振り返らずに鏡越しの尾崎にそのまま声をかける。無邪気な顔そのままに、何の含みもない言葉は傍から見れば微笑ましいものであるが、尾崎はそうも言っていられない。尾崎からは絵理の体で隠れて上手く見えないが、それでも彼女が携帯電話を手にしているのは確かであろう。今も尾崎の体内を思うがままに蹂躙するそれは、少しでも気を緩めれば一気に尾崎の奥底までも攫っていってしまう。まるで仲の良い友人にメールを送るような素振りで絵理は尾崎を思うがままにしていた。
 好きにやらせすぎてはダメ。なけなしの自制心はそう言わせるのが精一杯で、実際に口から出た言葉は絵理、とたった一言。それでも十分、二人にしてみれば通じてしまうものだけれど、「どうしたの?」という無垢な瞳を向ける絵理。その実、ちょっとでも反抗的な態度を見せれば、と手元の携帯をしきりにいじり、その度に尾崎の体が僅かに震えるのを楽しむその様はおもちゃを与えられた小悪魔のようであった。
 ひとしきり携帯で苛めるのを終えると、もう立っているのもやっとな尾崎に近づこうと席を立つ。
 違和感というにはあまりにも不出来なそれに尾崎の目が集中する。未だ収録後の衣装のままでいる絵理。ミニスカートから覗く、病的とも言える細く白い足に意外と女性の柔らかさを備えた体はいつでも見てきていたもの。ここまで必死に磨き上げてきた尾崎の芸術品。ただ一点、スカートの布を荒々しく押し上げるものがなければその造形は神にすら勝るとさえ思えたのに。
 しかし、その失望とは裏腹に尾崎の体は正直だった。
 顔を見上げるほどに近づいた絵理は手にする携帯をそらでいじる。設定は最強。
「ひっ……!」
 今日一度も体験していない振動に尾崎はたまらず腰を落とした。震える太ももを抑えつけるものの、またも目前にせり出してきたモノによって彼女の思考は殆ど停止してしまう。
 剥き出しになった男性器が床にへたり込む尾崎の顔面に、マーキングのように擦りつけられる。汗もろくに拭いていないためか、鼻を刺すような饐えた匂いはでも、興奮を促すだけにしかならない。まるで愛しい恋人の手に寄り添うように頬ずりする彼女の顔は淫靡に崩れかけていた。
 尾崎さん。
 頭上から降り注ぐ絵理の声が頭蓋の中で心地良く響く。先ほどまでの有能なプロデューサーというメッキは剥がれ落ち、出てくるのは一人の女の顔。支配され、束縛されることこそ極上の幸せと感じる、尾崎が最も嫌悪していた類の女になっていくのを彼女自身も感じていた。
 尾崎さん。ねえ、早く。
 急かされるままに尾崎はゆっくりとそれを頬張る。比較対象が多いわけではないが、明らかに大きいそれに顔を歪ませながらも、その顔は確かに笑っていた。
 大好きな、大好きな絵理の味。


/


 彼女の勢いを止められる者はもう、日本にはいないのかもしれない。
 Aランクアイドルまで上り詰めた水谷絵理を、周囲の者はこう評する。その飛翔が片翼ともいうべきプロデューサー、尾崎が失踪、復帰を遂げた後の彼女はまさに向かうところ敵なしであり、化け物揃いのAランクアイドルの中でもその存在を燦然と輝かせるものとなっていた。
 電子の世界から舞い降りた天使。リアルとネットを曖昧にすらさせるクイーン。彼女を賞賛する声はやむ事はない。
 順調な、あまりに順調な日々の中、敵対する者はその凋落を願うだろう。無論、落とし穴はどこにあるか分からない。
 ただ、その落とし穴があまりに理不尽で滑稽で不可解であった場合、人はそれをなんと呼ぶのだろう。

 昨日は確かになかったものだと、尾崎は何度も目と意識をしばたかせた。それで何もかもが元通りになるのなら苦労はいらない。それならばあの屈辱に塗れる以前まで、と明後日の方向に飛びかけていた思考を尾崎は戻す。それほどに今の状況を飲み込むには相当の努力が必要だった。
「尾崎さん……」
 対する少女の顔はなんとも掴みどころのない、フワフワとしたものだった。目は潤み、頬は恋を覚えたばかりのように紅く染まっている。口は半開きのまま、何かを耐えるように震えていた。長いこと、絵理に付き合ってきた尾崎でもついぞ見たことのない顔は蠱惑的でさえある。しかし、そんな絵理の顔よりも別の場所に尾崎の視線は集中していた。
 新曲に併せて新調した衣装は彼女の最大の武器であるビジュアルを活かすため、肩や足を剥き出しに露出を多めにしたもの。絵理本人も気に入っており、何の問題もなかったはずだった。それがただ一点、ピッタリとしたスカートラインを押し上げる隆々とした逸物によってすべてがぶち壊されていた。
「冗談、ではないのよね」
「うん」
 頷く絵理の顔に嘘はない。もとより、こんな下らない冗談をする子でもない。いつもどおりに社長を交えたミーティングを終え、堆く積みあがるスケジュールの前に相談があると切羽詰った絵理に引きずられる形で衣裳部屋に連れ込まれたのはつい五分前のこと。なかなか相談の内容を打ち明けない絵理に苛立ちを覚えていたのも懐かしくすら感じる。むしろ、尾崎の方が言葉を失っていた。
「その、どうしてとか、分かる?」
「たぶん、キモオタの願望……?」
 キモータ? 未だに絵理の使うネットスラングに疎い尾崎。とにかく解決策が欲しい身としては、理由の追求は後にすることにした。
 なによりその存在を誇示するかのように勃起しているのには参ってしまう。すぐに治めろと言っても無理があるし、女の尾崎ではそれ以上のことが言えない状態だった。まるでエブリデイマジックの世界にでも入り込んだような突拍子のない展開。それでもこの部屋の外にある現実は待ってくれない。
「尾崎さん」
 少女の顔が徐々に不安に塗り潰されていく。無理もない。男嫌いの気もある尾崎からしたら、発狂してもおかしくない事態。よく我慢してこれたと思う。なにより絵理のためだと、少女の顔と小山のように盛り上がるスカートを交互に見比べ、尾崎は決心した。
 理論派の凄腕プロデューサーと名高い尾崎が取った行動は実に単純だった。
 超常現象の対処が出来ないのならば、男性的な対処をするしかない。ごめんなさいね、と絵理のスカートをたくしあげると、アンダースコートの中でいかにも窮屈そうにしているソレに手を伸ばす。つい、と下着越しに指先が逸物に触れた。
「ひぅっ……!」
「大丈夫? 痛かったっ?」
 途端にあがる声に尾崎の方が慌ててしまう。しかし、絵理の顔を見てすぐにそれが間違いだと気づく。
 なんて、なんていやらしい顔。
 ただ指が触れただけなのにそこから漏れ出す快感に恍惚とした顔を浮かべる絵理。よほど我慢していたのだろう。はたして彼女のコレにも男性器としての機能がきちんと備わっているのか分からないが、それでも絵理の顔から不安の色が消えたことに安堵した。
 一度、触れてしまえば勢いがつくもの。尾崎自身もそういう経験がないと言えば嘘になる。ただ積極的に話すことでもないから話さなかっただけ。まるで言い訳のように言葉を並べては頭を落ち着かせた。既に下着から顔を出した男性器は尾崎の手の中に握られ、慣れた手つきで上下にしごかれていた。
「うっ……ふっ……」
 声を出すのが恥ずかしいのか、口元を腕でおさえながら体を奔る快感に堪える。思いのままに吐き出してしまえば、という思いと羞恥心とがない交ぜとなり、一つの大きな塊となっていく。もうなにもかもを開放したいという逃避にも似た何かが肥大していった。
 絵理はもちろんであるが、尾崎も心中は穏やかではなかった。鍵もかけられない衣裳部屋でこんなものを見られればどうなるか、いくら事務所内のこととはいえ、大きな波紋を呼ぶことは火を見るより明らか。なにより膝を着き、眼前に据えることでその大きさに露骨に反応してしまっているのが尾崎自身も感じていた。
 長さにして20センチ弱。太さも何かの柄を握るように硬く、逞しい。こんなものが可憐な少女から生えているというある種の倒錯と、この状況の危うさが、普段は奥深くに沈みこませている尾崎の情欲をも掻き立てる。手にすること自体、いつぶりだろうか。思わず過ぎる過去の記憶を振り払うように頭を振ると、スパートとばかりに手の動きを早めた。
 ニチャニチャと、はしたのない水音だけが聞こえる室内。快感に立っていられないのか、壁を背に絵理は尾崎から与えられる行為にただひたすら没頭していた。自慰行為は何度か経験があったが、こうして誰かに、おまけに同性にしてもらうなんてことは夢にも思わなかった。尾崎にある種の好意を寄せていたことは否定しないが、それも尊敬に準じたものであり、こうして男女の睦み事を交わすようなものではない。ただ、男性と恋仲になることが想像できない分、尾崎をそういう意味合いで意識してしまっていた。
「うぅ……!」
 手の中で更に膨張するソレに、最後が近いことが分かる。尾崎は空いた方の手でティッシュを数枚、抜き出すと亀頭に覆い被せる。扱く手は先走りの汁でベトベトで、鼻をつく青臭い性の匂いに頭がクラクラした。
「良いのよ。出しなさい、絵理」
「お、尾崎、さん……!」
 ビクン、と絵理の体が大きく跳ね、ティッシュ越しに生暖かい迸りを感じる。しかし、誤算はそこで起こった。
「きゃっ」
 ティッシュが薄かったのか、カウパー液で脆くなっていた壁を突き破るように精液が顔にまで掛かる。頬にべっとりとついたそれは、あと少しずれれば口の中に入っていたかもしれない。
「ごめんなさい、その」
「大丈夫よ。それよりも絵理は?」
 作業的に顔をティッシュで拭く尾崎にどこかで気落ちしてしまう絵理。ただ、そのおかげか、力なくうな垂れる性器に尾崎は胸を撫で下ろす。もう時間はない。まだ快感の余韻が尾を引いているのか、虚ろな目をしている絵理を引っ張り、外に連れ出した。

 社長にどやされながら社用車にに乗り込み、尾崎の運転でテレビ局へと急ぐ。終始、二人が無言だったのは仕方のないことかもしれない。
 それでもチラチラと、フロントミラーからこちらを覗く尾崎の視線は存外、居心地の悪いものではなかった。自分の為に、あんな汚いことをしてくれた。もとより外部からの物理的な刺激に必要以上に反応してしまう絵理のこと。初めて会った時のこと、初めてオーディションに勝ったときのこと。その度に刷り込みのように覚えてきた尾崎の優しさ、暖かさ、脆さ。
 こんなものが生えて尾崎さんに嫌われるかもしれないと思った。でも、尾崎さんはなんとかしてくれた。私の為に。
 言葉を選ぶように話しかけてくる尾崎に絵理は熱に浮かされたように、「うん、うん」と頷き返す。
 ただ、その顔とは裏腹に絵理の中で一つの暗い炎が点いてしまうのを、絵理自身も気づかなかった。頭にこびりついて離れない、精液に汚れた尾崎の顔。粘つく欲望の固まりに僅かながらに恐怖の感情を映した顔。
 もっと、したい。
 尾崎に気づかれないように絵理はまた勃起したそれを、スカート越しに愛おしく撫でた。



つづく

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