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絶望先生SS/百万遍の女




/一人目

 気をつけなきゃいけないのはあの女じゃなかったんです。

/常月纏


 私、こういう性格でしょう? どうしても精神的に近しい人間を警戒するんです。だから、小森霧なんて一番にマズイ、って思いました。
 先生ってけっして真人間ではないですけど、あれで結構、先生をしてますから。だから小森さんなんて教師としての使命感を満たすには絶好の相手。案の定、先生ったら自分の家の押入れまで許しちゃって。でもまあ、私、信じてますから。ほら、猫を飼うみたいなものでしょ? ああいうのって。
 次にマズイなって思ったのは木津千里。責任がどうとかって、いちいち理由を並べてみたって所詮は男女の仲ですもの。好いてるかどうかなんて周りの人間が一番良く知ってるわ。でもまあ、私の愛に比べれば瑣末なもの。
 今までどれほどの馬鹿な学者、作家、詩人、政治家が説いてきても分からないものが愛ですもの。先生への私が抱く情愛を言葉にしたところで陳腐なものですし、なにより先生に失礼だと思いません? 愛情は真ん中に心が形作るもの。心の為に人は動き、競い、争ってきたのでしょう? 私は先生という心の為に先生のそばに居続けるんです。ただの引きこもりや勘違い女に心がおありと思ってるんですか? ご冗談を。
 でも、だからこそああ憎い。私がこれほどに先生の心になろうとしているのに、その努力を、辛酸を苦渋を全て根こそぎ持っていった女。私がどれほど欲していたか分からない心を簡単に持っていった女。肉体的な繋がりなんて十数年で途絶えるものですもの。これから先、未来永劫幾百年を共に過ごすための心がなければ何も意味なんて、道理なんてありもしないのにっ。
 ああ憎い。憎たらしい。今もまた先生とあの女は心の睦み事を交わしているのかと思うと。
 一万遍、いえ、百万遍殺してやっても足りないくらい。
 え? じゃあ肉体的な繋がりはないのかって? ああ、そんなもの。とうの昔に刻んでいますわ。



/二人目

 私が見ているのに、どうしてああいうことが出来るのかな

/小森霧


 最近、先生が意図的に私を遠ざけているのは分かってる。どうしたってこんな女、そばに置いておくのは億劫で仕方ないもの。
 でもだからって、私が見ている前でああいうのってどうかと思う。引きこもりだけど私だって、むしろ引きこもってるほうが情報過多になりがちな今。先生とあの人がどういう行為に耽っているのかなんて、それこそ交君だって知ってるでしょ?
 でも、あの人は賢いなって思う。私はなんとか、自分の出来る範囲で先生に近づいたけどでも、肝心なところで引きこもってしまう。体さえ繋がってしまえばと何度押し入れの襖に手をかけたことか。空ければ寝ている先生がいて、その布団に潜り込めば肉体的にも社会的にも先生は終わり。それなのに私をこうも簡単に迎え入れているなんて。根っからの善人なのか馬鹿なのか。それとも最初から相手にされていないのか。あと少し首を傾ければキスさえ出来る距離にまで近づいた夜を何度も超え、私はグズグズと押入れの中で燻っている。
 燻りはそのまま体に疼きとして問いかけてくる。何度、襖一枚、開ければ全てを曝け出してしまう状況の中で自分を慰めたか。情けなさと快感がない交ぜになった奇妙な感覚は私を捉えたまま離さず、結局、あの人と先生がそういう行為に及ぶ最中にも私は何度も絶頂へと駆け上った。
 何度も何度も、回数は月が顔を出す頃には曖昧になり、太陽が躍起になる頃には忘れている。それでも先生とあの人の行為は続く。私も同じように快感に打ちひしがれる。まるで先生と快感を共有しているのではないか、という錯覚に陥るところで私は気を失ってしまうのだ。
 もうこれはずっと続く地獄。ぐずぐずと引きこもっていた私に下された責務であり罰なんだろう。
 何度、この体を震わせても、百万遍頂きを覗こうと先生に触れることはない。
 先生。そう呼べば彼は簡単に笑顔を向けてくれる。でも違う。私が欲しいのはそれじゃない。
 ねえ先生。それじゃないの。



/三人目

 ハッキリとあの人の想い人が分かった今、私はどうすべきでしょうか

/木津千里

 先生が曖昧で優柔不断であることには、私はもう半分諦めています。私というものがありながら、などという言葉も男性の甲斐性という見地からそこまで責め立てるものでもないと至りました。なのに、それなのにどうして先生はあの人を選んだのでしょうか。
 初めこそ私は男女の仲における責任の所在として先生に迫りましたが、私とて一人の女性であり、未だ恋愛に対する憧れとかそういったものは少なからず抱いています。その点では、先生に纏わりつく女達のキチガイじみた行為や思考は呆れ果てるばかりで、どうして先生はそのような人たちの相手をするのか、甚だ疑問を浮かべるばかりです。まあ、先生もそういう人だと言えばそうなのでしょうけれど。
 今もまだ先生には私と同衾した責任を取って頂きたいと思っていますが、それでも私は互いの納得した感情からの交際というものにも大いなる関心を抱いています。それを未熟だと笑うことも出来ますが、私は自分が思っている以上に未成熟な少女でした。私が振り上げる凶刃の意味を僅かながらでもわかって欲しいという甘えなのです。
 先生の想い人があの人であると気づき、恋愛の高尚さと意地汚さを説く間もなく私は白旗を掲げていました。万事において猜疑心の塊を素手で投げ込むような彼があの人にだけは無防備な自身を晒すのです。私を選ぶ為の心構えや性交渉による肉体的な繋がりを強要するわけでもなく、ただただ先生の誠意と責任感に縋っていた私に抗う術はありません。あの二人を殺したところで、残るのは腐敗臭と惨めさなのですから。
 百万遍の後悔を繰り返し、それでもまだ足りぬとばかりに事実は否応なく事実だけを突きつけてきます。
 百万遍、百万遍もです。
 先生。私はどうすればいいのでしょうか。ハッキリと答えてください。
 出来れば、私が絶望しない程度に。




/??人目

 好きという気持ちに嘘をついてはいけませんっ

/????

 そもそも人が人を好きになる気持ちに理由や方程式なんて存在しないんです。その昔、禅の開祖である達磨法師は時の皇帝に禅の極意を尋ねられこう答えました。分かりません、と。つまり何事においても、もちろん恋愛において分かることなんて瑣末もないということなんです。分からないことを恥じる必要もなく、ただその人を好きであれば良いんです!
 好きという感情には様々なものがあります。当人の了解さえあれば、それが婚姻関係でない愛情のやりとりであってもそれは愛なんです! 愛さえあればなにもいらない! まさに二人だけの世界! ひいてはお互いしか目に入らないのであれば、それ以上、他人と争う必要もなく戦争もなくなります! ラブアンドピース!
 とても、とても素晴らしいと思いませんか? ねえ、せん――――




 目を開けるまでもなく布団のすえた匂いに意識がゆるゆると戻ってくる。彼女の為に差し出した右腕はもう、肩から先の感覚がなかった。朝日もとうに昇りきった昼下がり。まさに堕落とも言うべき状況は教師という聖職に就く彼にとって、存外、居心地の良いものだった。
 かたくなに触らせようとしない髪の毛はいつものように後ろでひとつ結びにされ、左右非対称の前髪が彼女の顔を半分ほど覆う。弾力のある唇は健康的な彼女にしては色彩は薄く、思えばと、視線を下げれば彼女の真白な肢体が映る。窓からの光だけで見える彼女の体のなんと細く、か弱いものであるか。薄暗い部屋が描く女性特有の曲線も、病的かと思える青白さに少しだけ体を震わせた。
「ん、先生……?」
 起こしてしまいましたか、と彼はサッと視線をはずす。あまりにわざとらしい動きに腕の中の少女はクスクスと笑ってみせ、ばつの悪そうに口を尖らせるのもまた彼女にはおかしくてしょうがない。年齢不相応に幼さを覗かせるその仕草はわざとなのか、いや、この男がそこまで考えているわけがない。腕の中で少女の浮かべる笑みはその可憐さとは裏腹にひどく残酷だ。
 冬と夏の間の季節。ちょうど人肌を刷り合わせるには暑苦しく、それでも時折の寒さに人恋しくなる季節。その距離感が二人にとっては丁度いいのか、昨夜、少女が運んできた鍋は手付かずのまま、冷え切っていた。
 モゾモゾと、お互いの手がまた悪戯にお互いの体をまさぐり始める。長期の休みだからと行われる淫らな行為は惰性に任せてしまっている。起きれば交わり、そうしてまた泥のように眠り、そうして起きる。時折、押入れの奥から聞き慣れぬ音がするけれど、少女はもちろん、男の方はもう気にしていなかった。
 時間の感覚を忘れればすぐに現実味が溶け出していく。もとよりまどろみの中をもがく様なセックスを繰り返しているせいか、夢の中でも性行為をしているようにすら思えた。
 ああ、この小汚い8畳ほどの、閉鎖的な世界。
 壁に耳あり障子に目あり。そんなものは所詮、気づかなければどうというものではない。知らぬが仏。今がまさに、二人にとっての楽園だった。
 二人だけの世界。林檎の木も誰かが切り倒してしまった。もう誰も彼らを追い出す術はなく、人工的とも言える幸せが二人を取り囲んでいた。
 あなたとわたしのせかい。百万遍いやらしいことを繰り返して、百万遍の輪廻を繰り返しましょう。
 それこそがきっと、いとしきのぞみなのだから。




おわり
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