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SS / ウルトラグレートスーパーラブ3






 護国寺からタクシーで私のマンションに戻ると、絵理は潤んだ瞳をこちらに向けてきた。
 日本国民を魅了したその儚げな面差しを独り占めする贅沢はでも、食べ慣れてしまえば飽きるもの。さらに、その瞳の奥に宿るものが情欲だとすれば、私は幻滅したとばかりに息を吐く。それだけで絵理は絶望の淵にまで追い込まれてしまうのだ。期待していたものが与えられず、また取り上げられると分かった時の顔。この瞬間だけはいつまでたっても飽きがこない。
 黒のドレスに身を包んだ絵理は指先をカタカタと震わせながら、私の袖先を掴む。幼子が保護者に寄り添うように掴んだ弱弱しいそれを振り払ってみせると、いよいよもって彼女は谷底に突き落とされた。
「ごめんなさい! 違うんです!」
 跪き、懇願する絵理の顔は、今すぐにでも押し倒して滅茶苦茶にしてやりたいくらい綺麗。こんな顔をするのが分かって、私はますますこの子を手放し難くなる。私の指図など受けなくとも、たいていのことはどうにでもなってしまう彼女の才覚はそういうものに疎い私にも煌いて見えて仕方ない。その輝きを丁寧に泥を塗りつけ、塗り潰すだけの私の行為に慈母の愛すら感じ入るように絵理は縋り続ける。馬鹿な子、と哂えば私の笑みに安堵し、私の激情をぶつけられれば、ただその嵐が過ぎ止むまでその身を縮こませるだけ。絵理にとって私から与えられる全ては陽光であり、風雨でもあるのだ。
 皺になるからと、スカートにしがみつく絵理を離れさせる。その間も、彼女は私の一挙手一投足に集中していた。私を悦ばせる為だけに生きているの、という問いは今更、愚問にも近いものなのだろう。
 帰り際に貰った、粗供養品の入った袋をソファに放り投げ、スカートのジッパーに手をかける。背後では絵理のそわそわとした気配が感じられたけど、無視することにした。
 亡くなったのががキー局の系列会社の重役だけあって、護国寺の葬儀場にはテレビ関係者も多く集まっていた。絵理の関係でその会社とは懇意にしていたので足を運んだのだけれど、故人には悪いが式の殆どを覚えていないのが正直なところだ。記憶を辿ればあの男の顔ばかりがチラつき、善人ぶった悲哀の顔は何度、振り払ったところで私に押し付けてくる。
 スカートに手をかけたまま動かない私に、絵理が顔を覗かせた。私を心配する、事情を知った者が向ける目。瞬間的に体を駆け巡る血液が思考ごと奪うように私を暴れさせる。私に同情なんてするなっ。何も分からないくせにっ、何も知らないくせに!
 彼女の髪を引っつかむと、ひぅっ、絵理の顔が苦痛に歪む。それを見てほくそ笑む私の顔はきっと、悪鬼のようなものなのだろう。それでも絵理は自分を見てくれたとばかりに笑みを浮かべてみせた。

 気がつけば窓から差し込む光は月明かりのそれと取って代わり、私と絵理はベッドの上で裸で転がっていた。散々、私に虐められて疲れ果てた絵理は今、頬に涙の跡を残しながらすやすやと寝息を立てている。体のあちこちに爪立てた傷は痛々しそうで、それでも衣装や水着で隠れるところを選んでいる私の器用さに、自分でも驚いてしまう。私には精一杯の反撃とばかりに、胸元についたキスマークを残すだけだった。
 こうして絵理を滅茶苦茶にした後には必ず、私は自分を嫌悪する。才能や未来に溢れた彼女を縛りつけ、気に入らないことがあれば当り散らす。子供の玩具そのもののように扱う私の幼児性はしかし、そうしなければ彼女が離れていってしまうのではないかという怖れの表れに他ならない。あの時から私の時は止まり、私はいつまでたっても大人になれないのだ。
 その為の復讐の道具を求め、最高のものを手に入れればそれがまた惜しくなる。もう愛想が尽きただろうという苛烈な責めも絵理は嬉々として受け入れ、代わりに私が泣きそうな顔を浮かべていた。
 お願い、絵理。私なんかさっさと置き去りにして。貴方にはまだまだ先があるのだから。でも、私を見捨てないで。
 矛盾する感情は日々を追うごとに、彼女の煌きに心を奪われるたびに加速度的に増していく。いっそ壊れるまでと、寸でのところで躊躇する自分の滑稽さを笑いながら泣く夜をいくつも重ねていく。
 顔を押し付けた枕がじんわりと湿り気を帯びてきたところで、私の体を包み込むように背中ごと抱きしめられた。肩の辺りに感じる絵理の吐息、匂いに私はまた涙が溢れて止まらなくなる。お願い絵理、これ以上、優しくしないで。突き放して。そしたらまた私を抱きしめに来て。優しく私を包んで。
「尾崎さん」
 ポツリと、私の耳に収まるくらいの声が体に心地よい。世界の音は私の耳には大きすぎる。
「尾崎さん」
 首を動かし、猫が甘えるように絵理は顔を擦り付けてきた。僅かに感じる水の感触は汗のそれではない。
「ずっと二人でいようね」
 世界の全てが拒んできても。
 絵理はそう言って体を預けてきた。私はゆっくりと仰向けになると、裸の胸に彼女を抱き寄せる。久しぶりに見た私の顔に安心したのか、絵理はポロリと、目の端に溜めていた涙をこぼす。そうして私の乳房を口に含むと、今度こそ夢の世界へ落ちていった。
 ゆるゆると感じる彼女の舌先に体を少し捻りながら、私もまた絵理と一緒の夢を見ることにした。

 そうね、いつかあなたを壊してしまっても。それでもずっと一緒にいましょう。絵理。



おわり

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